講義②”国際養子縁組の近況” / APC(養親向け)講習会 2023/5
前回に引き続き、APC(養親向け)講習会のレポートです。
alwayschooselove.hatenablog.com
国際養子縁組(アジア圏)の近況
講師を務めたのはHolt Internationalという、養子縁組以外でも様々な社会貢献を世界中で行なっている非営利団体の社会福祉士、サマさん。
ホルトでは、アジアに限らず南米などでも子どもたちの支援を行なっており、アメリカでは国際養子縁組の先駆けとなった団体と自負しているようです。
今回取り上げられた国は下記になります。
・中国
・韓国
・フィリピン
・タイ
・台湾
・香港
コロナ禍以降、それぞれの国で渡航制限や感染対策に違いがあり、それに大きく影響を受けた国際養子縁組は、その状況が完全に元に戻ったとは言えません。サマさんのそれぞれの国への解説を書いていきたいと思います。
※参考記事
alwayschooselove.hatenablog.com
国として養子縁組専門の部署を構えるアジア諸国
全体の講義を通じてわかったのは、アジアのどの国も養子縁組を扱う部署が政府内にあることです。
国内、国外の割合など細かいことはわかりませんが、少なくとも国外へ、国際養子縁組として出ていく子どもたちを管理する部署はあるようです。
私自身でも修士論文を書いたときに調べましたが、韓国では国が養子縁組のデータ管理をしています。一方日本政府は、国際養子縁組への出国を把握していないことが問題視されています。
日本総務省と米国国務省が把握している件数にも、出入国で相違があると言われています。
日本国内外に関わらず、養子となった子どもたちが大人になり、いざ自分の出自を知りたいと思うとき。情報開示の仕方、それに伴うサポート環境、何も決まっていない日本はどうなんでしょうか。
中国の近況
少し話が逸れてしまいました。それでは、国際養子縁組の近況について書いていきます。(米国との間における国際養子縁組の場合です)
まずは、中国の近況について。
中国は、これまでずっと、世界で最も養子を海外へ出している国の一つでした。現在の国際養子縁組の方針は..."Open, but close"。開いているけど開いていない、そうです。
国として、国際養子縁組を公に再開はしていません。
ただ、中国からの案件を進めているあっせん団体はあるようです。それも、新しい申し込みを受け入れているわけではなく、以前からのものを粛々と進めているよう。
特に講師のサマさんが働くホルトでも、中国からの縁組申し込みは現在受け付けていません。
韓国の近況
ご存知の方もいるかと思いますが、韓国戦争以降たくさんの子どもたちが韓国から海外へ養子に出されました。海外で育った子どもたちが、韓国で裁判を争い出自の権利を求めたり、移民の手続きが正式に行われておらず、言葉すらわからないまま韓国に戻されてしまうケースなど、様々な問題が報道されています。
最近の子どもたちのプロフィールは、そんなに以前とは変わらず年齢は割と低め、大きな障害のない子どもたちが多い印象だそうです。
ここ最近では、韓国政府が養子縁組手続きにおいてもう少し介入する移行を示しており、国内での縁組をより推進しようとしているそうです。
日本も、国内での動きに力を入れていますね。
ただ、私の修士論文の調査時、韓国政府から派遣されていた同級生に話を聞いたところ、養子縁組はかなりセンシティブな話題で、日本よりもネガティブなスティグマがある印象を受けました。今後、韓国政府がどのように国内で縁組を促進していくのかに注目したいです。
また、国内縁組が進むと、障がいのある子どもたちが、より国際養子縁組に流れるのではという懸念も出ているそうです。
日本国内でも、障がいのあるお子さんの縁組にはまだ高いハードルがあると感じますし、一方のアメリカでは、その障がいが「そんなものなんだ」と言われてハードルがガクンと低くなる印象もあります。
中国・台湾から多くの子どもたちをアメリカへ縁組している団体の方は、95, 96%以上が障がいのあるお子さんだとおっしゃっていました。(これも修士論文のインタビュー時。)
もし障がいのあるお子さんがずっと家庭環境を知らずに自国内で過ごすなら、そしてマッチングする家族が海外にいるのなら、子どもにとってどれがベストなら、、?と考えずにはいられません。もちろん障がいの種類にもよると思いますが、いつでも、その子どもにとってのベストになるように、と強く思います。
と言っても、周りの大人たちが考えうる中でのベスト、なので、決めるのも難しいですが。
また、中国と同じく、多くのあっせん団体が、まだ韓国への新規申し込みを受け付けていないそうです。
フィリピンの近況
傾向としては、月齢の低い子どもたちの多いフィリピン(サマさんの印象)。
これまでICAB: Inter-Country Adoption Boardだったものが、NACC: National Authority for Child Careと体制を変えて養子縁組を取り扱っているフィリピン。
今年、2023年2月、フィリピンでは新しい養子縁組案件に関する書類、特に0歳から6歳までの子どもたちとの縁組許可がおりている家族からの書類受付を一旦停止しました。
これにより、最初の手続きから縁組が完了するまでの時間は4-5年と伸びることに。
タイの近況
タイからの養子は、比較的月齢の低い0歳から3歳頃までの子どもたちが多く、健康で、大きな働きかけの必要のない程度の障がいのあるケースが多いようです。
タイは、国として定めているガイドラインがとても厳しいそう。
ホルトでは、通常縁組と、障がいのある子どもとの縁組の2種類で運営しているそうです。
最初の手続きから縁組締結までは、2-4年間が目安。
また、最近新しくできたルールとして、シングルマザーが承認されるのに、事前に健康診断の提出が必要になりました。BMIも指定があるそうです。この事前承認にかかるのが、大体12-18ヶ月だそうです。
台湾の近況
中国本国とは別ルールで縁組が行われている台湾。縁組に関わるルールや規定も中国のものとは異なります。
台湾には4つの養子縁組団体があり、海外のあっせん団体は、4団体すべて、もしくはいくつかの団体と繋がることで縁組を進めています。
4団体は下記。
・Cathwel
・Good Shepherd Welfare Foundation
・Garden of hope
・Child Welfare League Foundation
このうち、Good Sheperd Welfare FoundationとGarden of Hopeは、養親候補に複数回の訪国を規定としているようです。最終的に子どもを迎えにいくときだけでなく、事前に何度か国を訪ねておくことを大切にしているそう。
多くのケースで、これら4団体は子どもたちの生みの親たちの情報を持っているようです。一方中国では、何も分からないケースも多いです。
全体の手続き自体は2-3年で、実際にマッチングが起こってから手続きを開始するまでが12-18ヶ月が平均。
台湾の縁組で特徴的なのは、生みの母親の希望を裁判所で表明する機会があることです。
このようなことを大事にしてほしい、など母親が希望を伝えることができます。このような養親には渡したくない、という希望が出る場合もあるそう。
香港の近況
香港もまた、中国とは別のルールのもとで養子縁組を行っています。サマさんによると、香港の縁組はまさに”ジェットコースター”。
縁組の取り扱いは全て、Central Adoption Authority of Social Welfareによって行われ、全ての決定事項もこの組織が行います。(内情は今わからないですが、日本もこのくらい「中央でしっかり縁組管理します!」という感じの組織が必要だと個人的に思います)
香港では、直接的な子どもの推薦は行われません。
世界中のあっせん団体は、自団体に登録している養親候補をあくまで’推薦’するのみ。そのため、ほぼ競争のようになっているかもしれない、とサマさん。
最初の推薦から縁組につながるケースはほとんどなく、2, 3回と回数を重ねるのが一般的だそう。家族が広東語を話すか、香港にルーツのある家庭の方がよりマッチングしやすいそうです。
また、子どもたち、社会福祉士を含む縁組に関わる人たちは、国際養子縁組に対して準備がしっかりできているそうです。自分達の置かれている状況と、今後の流れについてしっかりと把握している印象だそうです。
まとめ
国際養子縁組において大事なことは、子どもに障害がある場合にも受け入れ態勢があることだそうです。障がいのあるケースが多い国や、子どもや親の病歴が不明で分からないケースなど、様々な「分からない」に直面するケースが多いようです。
子どもの年齢は、幼児から10代まで幅広く、男の子の方が多い傾向にあるそう。また、きょうだいグループがいる場合もあるようです。
国際養子縁組の代表的な流れは以下。
①Application (申請手続き開始)
②Homestudy (家庭調査)
③First USCIS application (最初の米国移民局の手続き)
④Dossier (情報をまとめた書類提出)
⑤マッチング
⑥縁組代金の支払い
⑦Second USCIS application (2回目の米国移民局の手続き)
⑧Travel (渡航)
⑨Post-Placement (縁組)
⑩Finalization (縁組の法的な最終手続き)
全ての手続きを始める前に、養子縁組家庭や団体との関わり、様々な場所からの情報収集をしてからステップを進めることが大切とのことでした。
※タイ、フィリピン、香港では、各国内での最終手続きは行わないそう。そのため、これらの国から縁組を行った場合は、最終手続きは米国内で行うことになります。
次回は、「身近な人や親族に縁組のことを話す」というテーマの講義についてレポートします。